理事長所信

「私は優といふ字を考へます。これは優れるといふ字で、優良可なんていふし、優勝なんていふけど、でも、もう一つ讀み方があるでせう。優しいとも讀みます。さうしてこの字をよく見ると、人偏に、憂ふると書いてゐます。人を憂へる、ひとの寂しさ侘しさ、つらさに敏感な事、これが優しさであり、また人間として一番優れてゐる事ぢゃないかしら」
太宰治:1946年4月30日付け 河盛好蔵あて書簡より
【はじめに】
現在の熊谷に目を向ければ、一次・二次・三次産業の市内総生産額とも県内では有数の規模でありながら、日本国内の市町村と何も変わらない一都市です。では、熊谷青年会議所にできる事は何なのか。今のまちにとっての必要なことは何なのか。それは熊谷に対して特別な感情を抱いていただく愛着を高める事なのです。他と比べるのではなく、熊谷を生活圏とする人々が胸を張って「私のジモトは熊谷」と言えるまちをつくることが課題なのです。
私たちは決して優秀ではないかもしれない。だからこそ、せめて誰かの辛さや侘しさに敏感でありたい。優しさや優れていると漢字を正面から読むだけではなく、本質・意味や意義を考え「目指すべき未来・創り出すみらい」に向け、行動できる人でいたい。故郷・熊谷に何かあったら。そんなみらいを憂い、今できる最大限を懸けることこそが青年経済人としての使命であり、創始の想いを紡ぐ私たちが進むべき優れた道であると、信じてやまないのです。
【未来を創造し終着点へ躍進】
2022年に掲げた運動指針「躍動し続けるまち熊谷」は、折り返し地点を迎え、輝かしい実績を熊谷青年会議所に残しております。私たちの生活圏である熊谷では、風水害・地震のリスクに対する課題は常に向き合い続けなくてはならないのです。
記憶に新しい、2019年の台風19号の際には、多くの市民が各地で避難しました。避難所内では地域住民同士が集まるにもかかわらず、お互いの顔と名前が把握できない方が多い事実がありました。有事の際には、平時からの付き合いが大きな力になるからこそ、改めて地域コミュニティを考える機会を創出していくべきなのです。
そこで、防災減災という誰もが共通して考えやすい課題を通して、熊谷をジモトと捉えてもらう運動をこれまで以上に推進しなくてはなりません。その為には、目指すべき未来のために運動の再構築を行う事が必要です。私たちが発信し続けている運動が意識づけから習慣になっていけば強い熊谷へと昇華していくのです。
【文化を創造し次の時代へ】
成熟した社会では人々の欲求や関心は、生存、生活維持から社会的なものや自己実現へと変わってきました。多様性が認められる現代社会では、経済的な豊かさを優先するだけではなく、心の豊かさを重視する時代となっております。
熊谷青年会議所でも、「星川通り」や「桜」など、多くの文化を市民とともに育み続けてきました。心の豊かさを重視する今の時代だからこそ、改めて人々が心を寄せることのできる新たな文化を創造していく事が愛着を高めるためには必要なのです。
文化をつくるためには自分たちで、成果物をつくること、それを愛する人をつくること、そこに経済圏をつくることが重要です。自身の手で作り、心を寄せることのできる愛着の対象があれば、消えゆく文化を守ることにつながり、新たな文化を創造していく事にもつながるのです。
そこで本年では、今まで創造してきた「個性・文化・産業」を組み合わせ、私たちだから持っているものを磨き上げます。今あるものを最大限活用し、文化と人と経済が調和するまちづくりを提案します。私たちが作り出す具体例を基に賛同者を増やし、事業として価値を創出することこそが次世代に私たちが送れる希望なのです。
【組織の課題を戦略的思考で】
熊谷青年会議所は会員数が減少の一途を辿り、「人手不足により事業の実施は困難」、「会費収入の減少に伴い財政はジリ貧」、「青年会議所が地域社会から消えていく」このような不安を抱かなくてはならないのが現状です。これは全国各地の青年会議所においても同様であり、共通して抱えています。
青年会議所の運動は長い歴史の中で培われ、連綿と受け継がれてきました。しかし、運動の指針は5年ないし10年と長期的に定められているにもかかわらず、会員拡大運動には長期的な目標値の取り組みがありません。だからこそ、全メンバーが一丸となり、組織の存続が危ぶまれる現状を乗り越える為、創立75周年に向けた組織強化をしていくことが重要です。
そこで、目指すべき未来に対し全会員で会員拡大運動を行える組織戦略を考えてまいります。熊谷青年会議所への入会前後のプロセスを確立し、取り組みや方針を一貫させることで、新入会員が熊谷青年会議所の一員としての自覚を持ち、自ら積極的に行動できる環境を整えます。新入会員をはじめとして、歴史や伝統を知識として得ることではなく、活動の中から能動的に学び・発信していく事ができれば、熊谷青年会議所は更なる飛躍ができる組織になるのです。
【組織運営を円滑に】
青年会議所が地域のための組織である以上、その組織運営は健全性と信頼性を維持し続けなくてはなりません。熊谷青年会議所が目指すべき、今の時代に即した組織運営とは、まずは会員に対しても透明性と説明責任を果たし、地域からの信頼につながるものでなくてはなりません。また、会員自身の帰属意識の向上は、活発な意見を生み出し、力強い組織運営に必要な要素であると考えております。
熊谷青年会議所の会員として、判断が必要な際に自らが経験値を持っていること、全メンバーが志を同じくすることが今後を担う組織運営には必要不可欠です。会員全員が組織の目的を共有し、持続可能な発展を目指す上では組織の運営が重要なのです。
そこで、総務機能を担うとともに、熊谷青年会議所の周知、広報を行うという視点を持ち、積極的なブランディングを行ってまいります。誇りをもってすべてを世界に届ける。また、組織として向かうべき未来を見据えるために組織の一体感を創出することが必要なのです。会員全員が一丸となって協力し合うことで築かれる信頼と成果が、やがて熊谷青年会議所の未来への財産となるのです。
【結びに】
私たちはジモト熊谷の為に「英知と勇気と情熱」を傾け、一心不乱に行動します。熊谷青年会議所は創立以来、熊谷に暮らす自分たちの手でこのまちの課題を解決していくという意志のもと、運動を続けてまいりました。その為には、現状に満足せず、物事の本質・意味や意義を問い続けなくてはならないのです。
私は平時の青年会議所を考えます。答えは決まって「濡れぬ先の傘」なのです。先輩諸兄姉が創造した「ジモト」熊谷。今、共に熊谷のすべてを憂い、私たちの手でより優れた優しさにあふれるみらいを創ろうではありませんか。
晴れた日は晴れを愛し、雨の日は雨を愛す。
楽しみあるところに楽しみ、楽しみなきところに楽しむ。
昨日より、少し人を憂うことのできる人間に